1,放射線とは | 放射線の正体 放射線の特徴 チェレンコフ光 |
2,物理単位 | 各種単位 |
3,放射線実験 | 放射線の減衰 崩壊 放射線の管理 放射線の測定器 |
放射線は、放射能から高速にでてくる粒子のことです。
自然界の放射線の種類として3種類あり、
それぞれα線、β線、γ線といいます。
これ以外にも、陽子線、電子線、中性子線などがあります。
α線の正体はヘリウムの原子核です。
ヘリウムの原子核は非常に安定しているので質量数の大きい原子核は
ヘリウムの原子核の分を放出してより安定になろうとします。
226Ra → 222Rn + 4He
今の例はラジウムの原子核が時間がたつと自然に崩壊してα線を出して
ラドンになります。また、このときには質量保存の法則が成り立ちません。
いわゆる質量欠損がおきます。
E=mc2
という関係からα線のエネルギーは今の場合は4.8MeVになります。
β線の正体は、電子あるいは陽電子(ポジトロン)です。
中性子は単独で存在していると非常に不安定で半減期は10分です。
中性子が崩壊すると、陽子と電子ができます。
このような崩壊をβ-崩壊といいます。
逆に、陽子と電子から中性子ができる崩壊をβ+崩壊といいます。
では、β-崩壊について詳しくみてみます。
n→p+e+ν
ここで、nは中性子、eは電子、νはニュートリノを意味しています。
ニュートリノにバーがかかっていますので、ここでは、反ニュートリノになります。
反ニュートリノはニュートリノの反物質です。
次に、β+崩壊について詳しくみてみます。
p→n+e++ν
先ほどと矢印の向きが逆になっています。
e+は「陽電子」といわれ、電子の反物質です。
ガンマ線の正体は、高エネルギーの電磁波です。
γ線は電子の軌道が励起状態から基底状態(あるいはもっと低い励起状態)
に落ち込むときに発生します。
これらの正体は、陽子・電子・中性子が高速に運動しているものです。
放射線を遮蔽することを考えます。
α線は紙のようなもの1枚でも簡単に遮蔽できます。
β線は紙では遮蔽できませんが、鉛の板(厚さ1cm以下)
によって遮蔽できます。
γ線は、紙・鉛によってはあまり遮蔽できませんが
厚いコンクリートなどによって遮蔽できます。
また、中性子線、X線についてもガンマ線と同様です。
α線は紙のようなものでも簡単に遮蔽できますが、これは
短期間に強いエネルギーを放出するということなので
人体がα線で被曝した場合は、ヘリウムは非常に強い電離作用があるため、
細胞が破壊されることもあり危険です。
反対にγ線は遮蔽しにくいのですが人体を貫通することが多いので
α線よりは安全です。
ここでは、放射線によってどのくらいの透過能力の差があるか
表にまとめてみました。なお、対象は「水」ですが、人体と置き換えても
差し支えありません。
放射線の種類 | エネルギー[MeV] | 透過距離[mm] |
α線 (210Po) | 5.3 | 45μm |
α線 (226Ra) | 4.8 | 40μm |
α線 (239Pu) | 5.15 | 43μm |
β線 (14C) | 0.155 | 0.2 |
β線 (32P) | 1.704 | 9.2 |
γ線 | 0.05〜2.9 | 4〜450 |
X線 | 0.01〜0.4 | 1〜40 |
中性子線 | 0.025 eV | 2.8 |
中性子線 | 1〜50keV | 6.8 |
中性子線 | 1 | 24.5 |
中性子線 | 10 | 110 |
このように、α線は透過距離が非常に小さいことがわかります。
これはα線が反応性が大きいことを示しているので、被曝すると危険です。
逆に、透過距離の大きいガンマ線、(速)中性子線は、反応性が小さいので
α線ほど危険ではありません。
チェレンコフ光は、溶媒中での光の速度より速く粒子が通過したときに発生する光です。
よく、水中にRIを沈めるとその周りが青く光ります。
これがチェレンコフ光です。
空気中の音の伝わる速度より速く飛行機や宇宙船が移動すると
「ドーン」という衝撃音がします。
これが光にもいえて、チェレンコフ光は一種の衝撃波だと考えられます。
エネルギー損失は阻止能ともいわれ単位は[MeV・m-1]です。
つまり、単位長さあたりにどれだけのエネルギーが吸収されたかというものです。
エネルギー損失を、その物質の密度で割ったものを質量阻止能といいます。
単位は[MeV・kg-1・m2]です。
断面が単位体積になっている球を通過する粒子の総数を「粒子フルエンス」といい
単位は[m-2]です。単位時間のフルエンスを
「粒子束密度」または「粒子フルエンス率」といい単位は[m-2・s-1]です。
先ほどの粒子フルエンスは単位面積中を通過する粒子数のことでしたが
エネルギーフルエンスは単位面積中を通過するエネルギーのことです。
単位は[J・m-2]です。
また、単位時間でのフルエンスを「エネルギー束密度」or
「エネルギーフルエンス率」といいます。単位は[J・m-2・s-1]です。
日常使う面積の単位は[m-2]ですが、原子の断面積を
扱うには大きすぎます。そこで1b「バーン」というものを定義します。
1b=10-28 [m-2]
RI(放射線同位元素)が単位時間(1秒)に1崩壊する量を
1Bq 「ベクレル」といいます。
また、Ci(キュリー)という単位があるのですがこれは、1秒間に3.7×1010個
崩壊する量です。従って次のような関係があります。
1Ci=3.7×1010Bq
人間の体にはカリウムが0.35%あり、その0.0118%が放射性物質です。
カリウムの半減期が1.26×109年、質量数が39.1です。
体重60kgの人が体内に保有しているRIの数は
(60×103)×(0.35×10-2) ×(6.02×1023)×(0.0118×10-2) 39.1 =3.815×1020 個
また、1秒間に放出する放射線は6000個程度です。
(計算式は「崩壊」の項目を参照)
X線やγ線が空気などを通過すると電離を起こします。
単位質量あたりに電離した量を「照射線量」といいます。
単位は[C・kg-1]です。
単位質量あたり吸収したエネルギーを「吸収線量」といいます。
単位はGy「グレイ」です。
1Gy=1J・kg-1
放射線の生物効果を考慮した量を「総量線量」といいます。
単位はSv 「シーベルト」です。
総量線量次のようにして求まります。
H=DQN D:吸収線量[Gy]
Nは1といわれています。 Qは人体に与える影響を線ごとに決まっています。
Q | |
α線 | 20 |
β線 | 10 |
γ線 X線 | 1 |
これから、α線は人体に非常に大きな影響を与えることがわかります。
総量線量の具体的な例を示します。
例 | 総量線量[Sy] |
放射線管理区域内での年間許容被曝量 | 50m以下 |
放射線管理区域外での年間許容被曝量 | 1m以下 |
レントゲン1回の被曝 | 0.55m |
自然界での年間被曝量 | 1.6m |
歯のレントゲン | 3m |
致死量 | 6〜8 |
放射線源に何も障害物がないときの放射線の数をNo
障害物の厚さをxとすると、実際の放射線の数Nは
N=No exp(-μx)
という関係になります。このμは「質量吸収係数」といいます。
単位は cu/g です。
このことから、障害物の密度が大きいほど放射線は
透過しにくいということになります。
鉛などは質量吸収計数がおおきく、アルミは小さいです。
単位時間当たりに崩壊する粒子の平均は半減期をTとすると
λ=0.639/T
で求まります。このλを崩壊定数といいます。
もし、N個のRIがあれば単位時間当たりの崩壊数はλNになります。
以前に、人体には3.815×1020個のRIがあることを求めました。
それから単位時間の崩壊数が求まります。
λN= 0.693 × 3.815×1020 1.26×109×3.15×107 =6.66×103 [Bq] =0.18μ[Ci]
3.15×107は1年を秒単位に変換したためです。
これから人体では毎秒6千回の崩壊が起きていることがわかります。
100μCiまでは自由にRIを扱うことができるのですが
それ以上のRIを扱うときは放射線管理区域を設けて、
その内部でしか扱うことができません。
管理区域の周りには右図のような板を掲示する必要があります。
(図はJIS規格に準拠してかかれています。)
放射線の測定にはGM管を使います。
GM管に高電圧(数百から千数百V プラトー電圧という)をかけておきます。
放射線が入射するとGM管内部のある原子が励起します。
その衝撃が次の原子に影響を与える。・・・
これを繰り返すと大きな電流のパルスになります。
増幅率は1011倍という大きな数字です。
余談ですが電子工作の技術があればこの測定器を作ることができます。
東京の秋葉原に「秋月電商」という店があります。
この店にはガイガーカウンターのキットが売られています。
9V電池駆動で電流がたったの200μAです。価格は5700円です。
GM管単体の販売もしていてそちらは4000円です。
このGM管は、高エネルギーのβ線と、γ線を検出できます。
自然界には危険なα線はほとんどなく、β線は少ないので実用的だといえます。
実際に使用すると自然界のBk(バックグラウンド)が測定でき
1分間に20回程度検出します。
また、別のGM管を使用した完成品も15000円で販売しています。
(価格は変動する可能性があります)