1,分布関数 | 2項 ポアッソン 正規分布 Bose-Fermi分布 |
2,理想フェルミ気体 | Fermi分布関数 Fermiエネルギー Fermi波数 状態密度 電子比熱 |
3,理想ボーズ気体 | Bose分布関数 状態数 デバイ温度 Bose凝縮 転移温度 |
物理には決定論的なことと、統計的なものとの2つがあります。
統計的なものというのは、物理現象を確率的なものとして解く方法です。
熱統計力学では、あることが起きる確率(または期待値)というのは
分布関数で与えられます。
ここで、今まで学習してきた分布関数をまとめてみました。
1回の試行で、任意の事象が起きる確率がpだとします。
ここでqを任意の事象が起きない確率とすると
q=1−p
になります。N回の試行で任意の事象がn回起こる場合の数は
B(n;N,p)=NCn pn qN-n
で与えられます。このとき、平均はnp、分散はnpqになります。
ポアッソン分布は2項分布をもっと簡単にしたもので
N≫1 , p≪1
において成り立ちます。
たとえば放射線崩壊は、放射線原子は非常に多く(N≫1に対応)
1つの原子に着目した場合1秒で崩壊する確率はほとんど0です。(p≪1に対応)
このとき2項分布を近似すると
P(n;μ)=μ exp(-μ) n!
ただし、 μ=Np
このとき、平均、分散、ともにμです。
正規分布は別名ガウス分布といわれています。平均μ、分散σの正規分布は
これは、量子力学的な効果を考えた統計分布です。
Fermi分布関数は次のようになります。
Bose分布関数はFermi分布関数に非常によく似ています。
詳細については次の章で説明します。
熱・統計力学1では古典的な系について扱ってきました。
そのため、粒子同士の相互作用はなく、量子力学的な効果は考えませんでした。
しかし、低温においては粒子(特に電子)は量子的なふるまいをします。
そこで、熱・統計力学2では量子力学的な効果がある系について考えます。
先ほど登場したフェルミ分布関数は次の通りです。
これは、粒子の存在する確立のようなものです。
たとえば、T=0においてはβ→∞となります。
このとき、ε>μならば、分母は発散し、f=0になります。
逆にε<μならば、expの指数部分は−∞になるので expは0になります。その結果、f=1/1=1となります。
つまり、T=0においてはε>μではf=0、ε<μではf=1 という階段関数になります。(右図の青線) このときの電子は可能な限りエネルギーの低い状態にいます。
ここから温度を徐々に上げていくとだんだん緩やかになっていきます。
上記のμを特にFermiエネルギーといい、EFとかきます。
このEFから次のようなものが求まります。
KFをFermi波数、VFをFermi速度
TFをFermi温度(縮退温度)といいます。
いまの物理量の中でFermi波数は重要です。
波数kはT=0においては半径kFの球内にあります。
(この球面を「Fermi面」といいます。)
ひとつの波は(2π)3の体積を持つと考えます。
また、電子は2つの電子状態があるので因数の2をつます。
Vは物体の体積、ρは数密度です。
これからKFが求められます。
問題 1molのアルミの質量は27.0g、密度は2.69g/cm3です。 このときのFermi波数を求めよ。 解答 体積Vは、27.0/2.69=10.0cm3=1.00×10-5m3 1つのアルミ原子には3つの電子が存在するので 数密度ρは、ρ=N=3×6.02×1023=1.81×1029[m-3] V 1.00×10-5 kF=(3π2ρ)=1.75×1010 [m-1] また、 vT=2.03×106 [m/s] TT=1.35×105 [K] ET=1.87×10-18 [J]=11.6 [eV]
このようにFermi温度はかなり高温なので、常温では金属内の電子は
Fermi気体のように振舞います。このようにFermi温度と比べて
十分に低温な場合はFermi統計が利いてきます。
このようにして状態密度N(e)を定義します。(粒子数Nとは関係ありません。)
左辺は、k〜k+dkにおいての可能な1粒子状態の数で、
右辺は、e〜e+deでの状態数を表します。
この状態密度はエネルギーeの平方根に比例します。
金属の低温での比熱の振る舞いを観測すると次のようになります。
Cv=γT+AT3
右辺第1項はTに比例しています。これは量子力学的な効果が
現れたもので、「電子比熱」といいます。
第2項はT3に比例しています。これは格子振動によるものです。
物質内では、有限の温度が与えられているため格子振動というものがおきます。
これをフォノン(音子)という一種の粒子として間がる方法は
物性物理学1で紹介しました。
このフォノンは、Bose粒子のような振る舞いをします。
Bose粒子とは、1つの粒子状態にいくつもの粒子が入れるような粒子のことです。
(Fermi粒子は2つまでです。)
Bose粒子の例として、ヘリウム原子核、フォトン、フォノンなどがあります。
先ほど登場したBose分布関数は次の通りです。
このとき、化学的ポテンシャルμは0か負である必要があります。
(μ>0だと、ε<μのとき、f<0になってしまう。)
フォノンについて、波数をqで表します。(先ほどのkと区別します。)
さらに、物質内を伝わる縦波の速度をsl、横波をstとします。
q〜q+dq内にある調和振動子の数は次のように計算できます。
このg(ω)はω〜ω+dωにある調和振動子の数を表します。
(状態密度N(e)と違うので注意してください。)
g(ω)はωの2乗に比例します。
しかし、物質は連続体ではなく、原子でできているためωにも上限があります。
それをωDとするとg(ω)関数は、0〜ωDまでがω2に比例して
ωD以上では0になります。
このような格子振動に対する模型をデバイ模型といいます。
ωDを与えるqDは次のようにしてもとまります。
であらわされたΘをデバイ温度といいます。
デバイ温度は大体数百[K]のオーダーです。
これからエネルギーUが次のように近似できます。
なお、CVは次のようにしても求まります。
ただし、R=NikB
このfDをデバイ関数といいます。
これは、y→0でfD→1になり、古典統計力学に対応します。
絶対0度のとき、Bose粒子はkの1粒子状態にいくらでも入ることができるので
k=0の状態にすべての粒子を収容すればいいことになります。
このように、1粒子状態に巨視的な数のBose粒子が凝縮する現象を
Bose凝縮といい、凝縮している粒子を凝縮体といいます。
(6)のことを「リーマンのζ関数」といいます。
α=0は低温の状態で実現します。
上の(5)式の右辺第2項とαの関係は右図のようになります。
Bose凝縮が起きるときは、n0>0、α=0なので
このTCが「転移温度」というものです。T<TCだと、Bose凝縮が起きます。
Bose凝縮を起こした粒子の数は、T=TCで0、T=0でNとなります。
この転移温度TCの前後の物質の性質は不連続になります。
(つまり、性質が変わってしまいます。)
問題 1molの液体ヘリウムは27.6cm3の体積をしめます。 このとき、液体ヘリウムの転移温度を求めよ 解答 He原子の質量は m= 4 = 6.64×10-27 [kg] 6.02×1023 ζ(3/2)=2.612 ρ=N=6.02×1023=2.18×1028 [m-3] V 27.6×10-6 これらを先ほどのTcを求める式に代入すると Tc=3.14[K]